不動産関連のコラム

相続不動産を売却するときのリスク② ─ 底地と借地権

前号「相続不動産を売却するときのリスク①」にも出てきた「底地」と「借地権」について、今回は深掘りしてまいります。あまり聞き慣れない言葉ですが、ネット上での検索数が多く、大手不動産でもそれらの買取に力を入れているところが増えてきました。

【01】底地とは?借地権とは?

底地とは?

底地(そこち)とは、借地権が設定されている土地のこと、またはその土地の所有権(以下、底地権)のことを指します。底地には借地人(以下、借地権者)がいるため、一般の不動産のように所有者が自由に利用したり、売却したりすることが原則できません。とはいえ、全く売却できないというわけではありませんが、手段が限定されているため、ノウハウを有する不動産会社がまだ少ないのが実態です。なお、このように借地権者との関係で一定の制約を受ける土地の所有権を「不完全所有権」、制約を受けない通常の所有権を「完全所有権」といいます。

借地権とは?

借地権とは、地主から借りた土地(借地)に建物を建てる権利のことです。建物の所有権は借地権者にありますが、その増改築の際は基本的に地主の許可を得る必要があります。

そして借地権は、相続や贈与時にも財産評価される権利です。底地が相続財産になることは想像しやすいですが、借地権も相続財産になることを知らない人が結構多いようです。したがって、借地権を相続したり、贈与を受けたりすると、相続税や贈与税といった税負担が発生するのでご注意ください。
ちなみに、法定相続人(配偶者や子どもなど)が借地権を相続するときは、地主の承諾を得る必要はありません。


底地と借地とは物理的には同じものを指しますが、土地の所有者の立場からは「底地」、借地権者にとっては「借地」となります。

【02】底地の売却方法は?

底地を手放したがっている地主が増えているように思います。理由はさまざまですが、その根本には、下記のような経済的な事情があるように思えます。

  • 地代収入が支出より少ない
    借地権者からの地代だけでは、税金(固定資産税・都市計画税・所得税・住民税・相続税等)や経費(行政書士への報酬等)を賄えないケースが少なくありません。「負の資産」となった底地を手放したいという訳です。
  • 地主と借地権者のトラブル
    地代の値上げ交渉などがきっかけで、地主と借地権者との間に対立が生じて、裁判沙汰まで発展することがあります。トラブルを避けたい地主の中には底地の売却を検討する人もいます。
  • 土地が担保にならない
    底地権は不完全所有権なので、売却価格も低く、底地を担保に融資を受けることが難しいです。底地の利用価値に疑問を抱いている地主がいます。

それでは、具体的な売却方法を3つご紹介します。

「借地権者」に売却

もっとも成立しやすいのは、借地権者に売却する方法です。借地権者が底地権を取得すると、地代の支払負担が無くなります。また、建物の増改築や売買が自由に出来るようになります。
完全所有権が生じる理想的な形なのですが、この売買を成立させるためには、借地権者の購入意欲が高くなければなりません。また、借地権者にまとまった資金がある場合に限られます。


「不動産会社」に買取してもらう

不動産会社へ買い取ってもらう方法がありますが、底地を不動産会社へ買取依頼するためには、借地権者の許可を得たうえで、賃貸借契約の解除手続きをしなければなりません。もし借地権者の許可を得られない場合は、時間はかかるかもしれませんが、定期借地権※の場合ならその存続期間満了まで待つという方法もあります。または、建物が滅失したときに改めて交渉する方法もあります。

(※定期借地権とは、契約期間を定めた借地権のことで、更新はありません)

あと、底地の買取実績のない一般的な不動産会社に買取を依頼をすると、通常より安い価格を提示される可能性があるので、相場を把握したうえで慎重に判断することが大切です。可能であれば、底地買取の実績のある不動産会社に買い取ってもらうことをお勧めします。


第三者に売却

借地権者や不動産会社でなく、個人の第三者へ売却する方法もあります。借地権者と関係が良好で、地代も安定的に入ってくる物件であれば、不動産投資家にとって魅力的でしょう。
ただ、買い取った底地は自由に活用できず、借地として活用しなければならないので、当然ながら需要は少ないです。おのずと売却価格も低めになります。

【03】借地権の売却方法は?

借地権は「地上権」と「賃借権」とに大別されます。
地上権は、民法上は物権と呼ばれる強い権利です。地主の承諾なしで「地上権の譲渡」「建物の譲渡」「担保の設置」などが可能で、さらに地代を地主へ支払う法律的な義務付けもありません。地上権の範囲は「土地の上の空間」と「地下」まで及びます。このように地上権は、地主にとって相当に不利なものですから、地上権が認められるケースは限られています。

地上権が設定されている具体例としては、地下鉄や高速道路が重なっている土地です。鉄道事業者が地下鉄を建設・運営するにあたり、地下部分に「地上権」が設定されます。高速道路の空中部分に設定されることもあります。
最近では、太陽光発電設備の用地に地上権が設定されるケースが増えています。投機色が強い太陽光発電事業では、設備の所有者が変わることがあるので、譲渡が自由にできる地上権が多くの場面で利用されているようです。

このように地上権は、公共の役務に供する場合に認められる権利です。一般的に、借地権といえば「賃借権」のことを指す場合が大半です。


「第三者」または「不動産会社」に売却

一方「賃借権」は、民法上は債権と呼ばれる弱い権利で、原則、地主の許可がないと譲渡ができません。地主に無断で借地権を「第三者」へ売却してしまうと、借地契約を解除されてしまう恐れがあるのでご注意ください。もし、地主の許可を得るのが難しそうな場合は、専門の不動産会社へ相談することをおすすめします。


「地主」に売却

借地権は、地主へ売却することも可能です。地主から借りている土地を地主に売却するというのは、違和感を抱くかもしれませんが、借地借家法で定められた権利であって、れっきとした資産なので成立します。地主としては、借地権を買い取ることで、土地の上にある建物を所有できるほか、「完全所有権」を取得できるメリットがあります。建物と完全所有権が取得できれば、建物を賃貸したり、売却して現金化したり、さまざまな活用が可能になります。
上記の「第三者または不動産会社」に売却する際も、地主の許可が必要になりますが、借地権が他者に渡るくらいならば自分で買い取ることを希望する地主もいます。


借地権の存続期間や更新有無にご注意

借地権は、借地借家法により「普通借地権」「定期借地権」など複数の種類に分けられます。ここでの詳細説明は割愛しますが、それぞれ存続期間や更新の有無が異なるため、地主や借地権者はよく把握することが大切です。

ちなみに、地主に許可をもらうときに「承諾料」を地主に支払うことが通例となっています。これは法律で支払いを義務付けられているものではありませんが、ほとんどのケースでは支払いを求められるのが実態です。一般的に、普通借地権の場合は地代が安く設定されているので、その代わりとして、権利金、増改築承諾料、建替承諾料、更新料等のさまざまな名目で、地主は借地権者に対して一時金を要求しています。定期借地権の場合は、借地の期間が短いので、このような権利金等の習慣がありません。
なお、借地権者には建物買取請求権という地主に建物を買い取ってもらう権利がありますが、利用できるのは基本的に、普通借地権の更新などを認めなかった場合に限定されます。

まとめ

底地や借地権を手放したい場合は、別々の取り扱いになると、通常の不動産売買よりも面倒が多いため、売却にいたるまでに困難がともなうことでしょう。だからこそ、底地は借地権者へ、借地権は地主へ売却できれば理想的です。不動産会社や第三者へ売却するよりも良い条件で売買できる可能性も高くなります。

いずれにしましても、複雑でデリケートな不動産売買になると思いますので、リスク回避のためにも事前にお近くにお不動産にご相談することをお勧めします。

 

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